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Apartment

太田の長屋

2007Complete

CAn宇野享

Y字が生み出す二重の意味―戸建て感と集住感
敷地は群馬県太田市に位置し、周囲には畑や住宅、工場などが広がり, 牧歌的でありながらその文脈のなさが散漫な印象を与えている。牧草地として使われていた約3,000㎡の広い土地に、 わずか400㎡程度で10戸のアパートが求められた。
建築が敷地全体に樹形のように張りめぐり、住戸が床面積以上の広さを体感できることを目指し、「Y字型住戸が連結する平屋の長屋」を選択した。平屋は接地性が高く、Y字の端部のみを戸境壁としているため、戸建てに近い感覚を生み出している。
一方で、付加的な塀はつくらず住戸自身で庭を緩やかに区切り、屏風のように柔らかく囲い込むことで一体感も得ている。

迷路性と開放性/近景と遠景
アプローチ通路から見ると強い北風とプライバシーを考慮した比較的閉じた外観で、Y字が輻綾する外部空間は迷路性があり視点が定まらない。しかし、いったん内部に入るとY字に沿った方向性のある視線と扇状に開放する視線が混在する。窓から見える隣戸の壁は角度が振られているため視線が流れ、さまざまな距離感を生む。アプローチ側のインティメイトな近景と畑越しに数百m先まで見通せる遠景が同時に獲得できる。
Y字の流動性を活かすため、三つ又の中央部にア イランドキッチンを据え、交差部が見渡せるようにした。 白い天井と白い床に挟まれた壁は横目地のあるOSBで、温かく印象的なテクスチャーが水平連続感を強調する。
南下がりの微地形を残し、住戸連結部に三角形の中庭を設け高低差を吸収している。そこは外周部に面さない住戸の庭となっているが、均ーに広がるY字の連結角度をコントロールするパーツともなっている。

異化と同化
Y字という特異な形状と緑の芝から際立つ臼いガルバリウム鋼板は周囲に異化作用をもたらしているが、時が経つにつれ周囲の牧歌的な風景となじみながら新たな居場所の起点となり、増殖することを夢想しているこの建築はクライアントに、ドイツ語の音楽用語で「連続・反復進行」という意味を持つ 「ゼクエンス」 と命名された。この名称には、完成した建築で体感できる「移動することで変化する景色」や、さまざまな住み手の個性が建築を彩ることにより「徐々に変わっていくデザイン」という想いも込められている。クライアントと共に目指した多様な生活シーンが、「ゼクエンス」で展開し続けていくことを楽しみにしている。

DATA

所在地 群馬県太田市
用途 集合住宅
構造 木造
規模 地上1階
敷地面積
建築面積
延床面積
2997.59㎡
432.24㎡
415.90㎡

PUBLICATION

新建築
CasaBRUTUS
domus
2007年11月号
2008年2月号
2008.11
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