この計画は、昭和 38 年から 50 年間に渡り地域の医療活動を担ってきた歯科医院を現代 の要請に合わせて改築するものである。敷地には、ハウスメーカーの住宅と RC 造の診療所 が建っていた。老朽化し手狭になっていた RC の診療所を解体し、住宅の一部を再利用しな がら新たな歯科医院を増築するという、小さいながらも複雑な初期条件を持っていた。既存の住宅が型式認定を受けたハウスメーカー住宅である場合、木造住宅に増築する場合より建築法規的条件が難しくなる。ここでは、既存住宅とは構造的に完全に独立した木造部分を増築し、接触する全ての面をエキスパンションジョイントでつなぐという、小規模建築としては大掛かりな構法を選択している。今後、型式認定の既存住宅などに増築を行う際、基準法・施行令を含めて柔軟な対応が望まれる問題であろう。
歯科医院としては、極めてオーソドックスな平面となっている。既存住宅の一部を利用するという限定された条件の中で、必要な診療台を確保しながら患者動線と医療動線を明確に分離すること、医療スタッフの作業領域をコンパクトにまとめることなどの要望から平面計画は必然的に決定される。ここでは、空間の高さ方向と明るさをコントロールしながらそれぞれの役割に応じた場を創り出すことを試みた。医療動線の核となる場は天井が高くハイサイドから採光する明るい空間とし、患者の待合から診察室へのアプローチは逆に天井高を抑え地窓からの低い光で満たされたものとしている。その二つに挟まれた診療室は、個々の診療台をパーティションで区切り患者のプライバシーを確保した。これらの3つの場は、それぞれが独立していながら、様々な光が共存している状態を自然に感じ取ることができる空間となっている。 多様な明るさが共存する空間は、用途に関わらず建築の一つの本質であると考える。この計画では、ディテールを徹底的にミニマルにすることで光の状態が純粋に感じられる空 間となることを目指した。