「SPACE23℃」は、1970年代初頭から活躍し、「もの派」の作家ともいわれる故榎倉康二氏の奥様が運営されるギャラリーである。改築前は、長屋のように一枚の壁で隔てられた二軒の住宅のうち、一軒の居間や食堂をギャラリーとして開放していた。クライアントからは、家族構成の変化に伴い、手狭になった住宅の改装と、事務スペースのあるギャラリーをつくることが求められた。既存住宅は「木造枠組壁工法」のため、「木造軸組工法」のような壁位置の変更や、減築、増築ができない。様々な検討を重ね、榎倉氏の作品を納めた二つの収蔵庫はそのまま生かして住宅を改装し、離れにギャラリーをつくることにした。
具体的には、住宅より1800㎜ほど低い駐車場のあるレベルまで庭を削り取り、住宅とギャラリーの屋上テラスへのアプローチ階段と、土留めの擁壁を兼ねた鉄筋コンクリート造のギャラリーを配置した。ギャラリーを低いレベルに置くことで、住宅への日当たりと庭代わりの屋上テラスが確保できる。近隣に住む車椅子利用の方にも利用してもらえることを期待した。また、駐車場を拡張して2世帯の車が並列駐車できるように改善している。地面から立ち上がる建築ではなく、地形に寄り添うような建築とすることで、ギャラリーの存在感を希薄なものとし、ふたつのレベルに分かれた「生活と展示」という異なる活動が、緩やかに共存することを期待した。
内部空間は、入口の脇が受付も兼ねた事務スペース、その奥がコンクリートの土間と白い展示壁のギャラリーというシンプルな空間構成である。ギャラリー正面に大きな壁面を設けて、空間の高さを生かした高窓からの柔らかな光で空間を包み込む。柔らかな光に包まれ、展示壁の入隅を曲面にすることで得られる「空間の輪郭をぼかす」という効果は、小さな空間を大きく感じさせる意図と、榎倉氏の作品に使われた廃油や塗料の「滲み」へのオマージュでもある。写真の展示作品は、榎倉氏が1980年代から1990年代にかけて制作していた、綿布にアクリル塗料を染み込ませた代表作である。地形に同化したような「SPACE23℃」が、これまで同様に榎倉氏を慕う、さまざまなアーティストの方たちに支えられたギャラリーとして発展していくことを願う。(CAn/宇野享)