このプロジェクトは都市基盤整備公団による超高層賃貸住宅の42階~44階(計44戸)のインフィルを設計するもので、都心居住の住戸プラン・プロトタイプ検討を目的に公団が立ち上げた「都新居住委員会」の中で、私たちが提案した検討モデルが実現したものである。
KSI(公団スケルトンインフィル)として、性能発注方式による現場が既にスタートしている状況下での途中参加であり、インフィルの後年の可能性をシミュレイトするとして位置づけられた。
ここ数年、都心型高層マンションが増えており、1億円以上の超高級マンションが次々と完売する。特に首都圏の湾岸エリアに建設計画が集中しており“湾岸戦争”とも呼ばれ始めた。しかし、そのどれもが似たり寄ったりで、NYや香港、北京などと比べて極めて“日本的”間取りに終始し,nLDKの域をでない。そのような状況に対して違和感を覚え、都心の高層居住にもっと違う可能性を見出す事ができないかと考えた。
東京都では一般的な標準家族の割合は3割を切っている。公団といえども標準家族にとらわれることのない、血縁によらない“ファミリー”の概念を持ち込む必要があるのではないか。特に汐留という都内でも特化した場所ではよりリアルな都心居住のあり方が見えてくる。
ただ、実現した6タイプが最初からひとつのフロアに入る事を想定していた訳ではない。都心居住のカタチとしていくつかのバリエーションを提案したところ、公団側の意向で全てのタイプを実現することとなった。その結果、ひとつのフロアに多様なタイプの住戸が並ぶ。各々の住戸タイプは、別途詳述にあるが、汐留という立地で国内最高層賃貸という条件からその眺望と、SIであることによる水廻りと界壁の扱いが共通するテーマとなっている。その中で、グループ居住、独立性の高い関係を保ちながらの共同生活、広々としたワンルーム、SOHOなどその住戸プランは様々である。
住戸のあり方と同様に共用ゾーンのあり方も重要である。公団に限らず、共用廊下と住戸の境界は必要以上に閉じられている。我々は玄関側に可能な限りガラスを使い、バッファーゾーンを挟んで、外側にメッシュフェンスを設ける方法を採用した。防犯性能を確保しながらも、人の気配が滲み出すしつらえが実現できた。
1棟で800戸を超す大規模な建物はそれひとつで団地のスケールを持っている。それが恐いほど単純にできてしまうことを回避する意味でいろいろな設計者が3フロアくらい担当する方式は有効そうだ。