この建築は、公民館、図書館、児童館、役所の支所機能が複合された、豊川市小坂井地域の中核となる市民利用施設である。
市町村合併により必要な役割などが変化し、老朽化の問題も抱えていた4つの施設を、複合施設として再整備する計画があり、我々は2017年に実施された公募型プロポーザルにより設計者として選定された。
複合施設の空間的魅力は、各室間を結びつける共有領域にあると言って良いだろう。複合施設の中では様々な活動が行われるが、それらが共有空間に自然に溢れ出てくることで施設全体が活き活きとした雰囲気が醸成される。例えば、公民館のキッチンスタジオで作った料理を共有領域で食べる、集会ホールで行われる音楽やダンスの音が漏れ出てくる、児童館の子供たちの声が聞こえてくる、など様々な活動が共有領域で混じり合うことで、ここで行われる多様な活動が来館者に自然に感じられるようになる。2階の共有領域は BDS 内部となるように計画し、図書館の拡張領域として自由に本を持ち出すことができる計画とした。閲覧や学習といった本を通じたアクティ ビティが各室の活動と連携することを目指した。
この建築は2階建てで中央にある共有領域の空間は3層分(天井高12m)の高さがあり、平面的には40m×10mのプロポーションを持つ細長い空間である。1階は細長い空間の両側に支所、児童館、調理室、集会ホールなどの諸室が並ぶ中心性の高い場となっている。2階は中央部分に吹抜があるので、人の領域としては円環状の形をしており、その周りに公民館の諸室と図書館が接続する。1階、2階を通してこの高く細長い基本の骨格の中に天井高の異なる領域や小さな中庭などを配置し、図書館や児童館などのボリュームの大きな空間が接続されることで様々なスケールの人の居場所を設けている。2階では吹抜周りをぐるりと一周するようにオーバルと名付けた家具を設計している。オーバルは全周60mの一体家具で、雑誌架、展示台、テーブル、ソファ、ベンチなどが組み込まれており、この施設を利用する市民がお互いに適度な距離をおきながら一人でもグループでも思い思いに過ごすことができる場を提供している。この吹抜空間は上部にハイサイド窓を設けることで自然採光、自然通風が可能となり、照明や空調に関わるランニングコストとエネルギー負荷の軽減にも貢献している。
外観デザインでは地域の中核施設としてのシンボル性を持ち、市民に愛されるものとなることが大切である。外装材の金属パネルには、この地域の古い神社の伝統的祭事に用いられる風車の形を図案化したパターン穴あけ加工した金属パネルを採用し、市民に共有される建築の姿を目指した。