神戸市郊外の西神ニュータウン、住宅地とワイナリーに挟まれた新しい工業団地に立つ工場である。自動搬送台車や立体自動倉庫といった「工場のための生産ライン」を生産するこの工場は、①工場そのものが全体として他の工場のショールームとなるように、また②若者にとって魅力的な職場が周辺に多くあるこの地で、いかにポジティブに働く人を定着させるか、という2つのタスクによって計画された。
我々は、いきいきと働くことができるファクトリープレイスをデザインした。24mスパン、10,000㎡という広さの大型工場にハイテク工場故の約15人という人の少なさでは、機械に人が埋もれ、隣の人に話しかけるにも歩いて行かなければならず、寂しくて魅力的な労働環境とならない。そこで、人の配置が固定されたコンベアーに決定されるという従来の概念を覆し、自動搬送台車の経路を工夫することで生産ラインと人の配置を重ね合わせ、数人ずつのグループをつくることで働く環境をイキイキさせる。加えて、グループごとにフォリーを設け、外気に触れながら休憩したり食事を取ったりできるようにし、作業環境を向上した。
建物中央に設けた中庭、外壁の足元周りの窓、トップライトとハイサイドライト、そしてライトグレーの床によって、自然光だけでも全体的に明るい内部となっている。これは空間の美しさだけでなく、環境負荷の低減にも寄与している。中庭のように、従来の工場イメージではない計画の提案には、発注者から工場としてのフレキシビリティを損なうのではとの懸念があったが、生産ラインを組む担当者と議論を重ねて、開放感と浮遊感のある快適な空間を実現した。
空調はスポット冷房と配置変更可能なパネルヒーターでラインの変更に対応している。また、パネルヒーターを黄色に塗ることで天井を見上げれば瞬時に人の位置が認識できるようにした。
工場スペースとオフィススペースはお互いの視覚制御を十分に検討し、開放的でありながらも、例えば「設計者がコーヒーを飲んでいるとサボっているように見えてしまう」、など業務の違いによる干渉を避けた。また、見学者動線は守秘義務を考慮し中央に一本のブリッジを導入した。ワークウエアは空間とマッチングのよい色を提案した。
屋根と壁を一体としたデザインは、設計開始から1年以内、工期9ヶ月という短期間の中で、デザイン性だけでなく打ち合わせや工期、コストの短縮も可能にした。
本格的、しかし新しい空間の本工場は見学者も多く訪れる。またそれ以上に発注者が満足していたのは、高卒新人の離職率がゼロだったことである。これは、景気のよい当時では考えられないことであった。時代は変わったが、働いている人がいきいきして見えること、プライドとブランディング意識を持てる職場であることこそが、生産性の向上や企業イメージのアピールになるということについては、これからも変わらないと考えている。