高知市郊外の新興住宅地、南下がりの雛壇状に造成された宅地に建つ、複数の注文住宅の計画が出発点である。諸般の理由で実現したのはこの住宅だけであるが、同時期に隣接して建つ建築群の利点を生かし、建築ヴォリュームとヴォイドによる粗密感の総体で、ふたつの住環境を実現したいと考えていた。ひとつはヴォイドが生み出す光と風、緑などの自然環境、もうひとつは複数の敷地全体が、生産の場も含めて、多様な活動で満たされた生活環境である。結果として、それぞれの敷地条件に応じて、ヴオイドを囲み込むような、L, T, Z型の平面形をした建築ヴォリュームの集合体を導き出した。この骨格に複数の建主の要望という変数が加わり、不均質でありながらも全体の空気がひとつに感じられる「群の風景」が形成されていくことを期待していた。この建築は、上記のような経緯を経て、まずはじめにL型の建築ヴォリュームとヴォイドの取り方を確定している。このL型のヴォリュームは、4つのキューブと浴室のような滞留時間の短い空間を積層したコブのような空間で構成される。ひとつのキューブは。大キャンティレバー構造となる。片持ち部分のラチス材は、小径の高張力棒鋼による鉄骨トラス造で軽量化を図り、支持部分は壁式鉄筋コンクリート造として剛性を高め、振動障害に配慮している。
また、設計段階では、建主の家族構成が流動的であったこと、住宅兼オフィス、または全体がオフィスになる可能性もあった。そこで、4つのキューブを独立性が高く、性格の異なる空間とすることで、それらの問題に対応できるような骨格を与えようと考えた。全体の軸となるキューブは玄関、階段、廊下などで構成される。本棚に囲まれた地形のような折り返し階段は、動線空間でありながら、滞留したくなるような異なる行為の共存が期待される。空地に面した1階のキューブは、敷地全体が活動領域となるように、透過性が高く開放的な空間にしている。ポリカ小波板張りの内照式光天井、隣接したコブの浴室鏡面に映る風景は、リニアな空間に奥行をもたら。2階には軸となるキューブで連結されたふたつのキューブがあり、ひとつは架構が剥き出しになった多目的なワンルーム、もうひとつは3つの個室に分割することができるワンルームである。隣接したコブの小さな空間を含めて、大きさの異なる空間の組合せをそのつど選択し、家族構成や用途の変化に適応させることができる。
私的な領域の多様な活動が街に映し出され、閉塞感がなく透過性の高い住環境を形成するような住宅群による「群の風景」の可能性を、この建築は提案している。