ひとつひとつの空間をどう扱うかではなく,空間相互のつながりに興味がある。一言でいえばシークエンスという言葉になるのかもしれないが,経路のように順序だてて空間が連続していくのではなく,ポンとひとつながりの空間がそこにあるという感じだろうか。 形態的に完結したカタチという意味ではなく,そこで起きる活動の影響を受けて,ひとつの空間が引き伸ばされていくような,「空間をつなぐカタチ」があるのではないか。そんなイメージの断片が出発点となった。
設計にあたり,寒冷地対応,セキュリティ,社会開放への配慮も大切であったが,高さ9.5 m · 17m四方のフレーム内に他の支局と同程度の床面積をどのように確保するかが,この建築の骨格を決定する要因となった。
単純に,階ごとに完結した会議室,編集室,プロジェクトルームを積層すると,使用頻度の少ない会議室やプロジェクトルームは,恐ろしいスピードで増殖していく資料により,瞬く間に倉庫と化してしまう。また,選挙時や災害・大事件が起きると,支局には応援部隊の記者やアルバイトの学生が押し寄せてきて,活動ヴォリュームが一気に膨れ上がる。通常は性格の異なる空間が積層されていて, 必要に応じて上下階の活動が連鎖・循環するような「空間をつなぐカタチ」をつくりたいと思った。
まず,建築の与条件を,活動ヴォリュームが 最大のときに初期設定する。ここで,同一平面に編集室として使えるような会議室,プロジェクトルームと編集室を帯状に並べる。この帯状の空間を敷地の上でS字型に折り畳むことで,3層に分節していながら,ひとつな がりの大きな空間ヴォリュームをつくり出すこの空間がもつ方向性とは関係なく,独立した階段を即物的に配置する。
あとは構造,設備など,建築を構成するすべての要素が,それを実現するために決定されていった。特に,内部空間の色彩を「空間をつなぐカタチ」を浮かび上がらせるうえで重要な要素としてとらえ,グラフィックデザイ ナーの福田秀之氏と共に,色で構成されたス トラクチャーをつくろうと試みた.ひとつながりの空間を,白と生成りの2色で塗り分けることで,少し移動して視点がずれると,今までいた空間とは,質の異なる空間が視界に飛び込んでくるコンパクトな直方体が実現できたと思う。