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朝日新聞秋田支局

1999Complete

C+A宇野享

この建築は,秋田市内の官庁街に位置する朝日新聞社の秋田支局である。冬期の自然環境が厳しい寒冷地に立地するということのほかに,この建築を決定しているふたつの要因に触れておきたい。
1987年当時の阪神支局での事件が記憶に刻まれた新聞社であり,セキュリティの問題は深刻である。それでも人びとにきてほしい,社会に開かれた支局でありたいという朝日新聞社の強い意志があったこと。もうひとつは,通常のアクティビティと選挙・災害や大事件が発生した際のアクティビティが大きく異なるオフィスだということ。通常は10名程度が活動する支局だが,ピーク時には100名近くに膨れ上がる。この活動ヴォリュームの増減に対応できるフレキシビリティの高い空間が必要とされた。
朝日新聞社との打合せを通じて,閉じながら開かれた建築,近くにありながら遠くに感じられる空間,そんなイメージの断片が浮き彫りになってきた。この建築は,市民ギャラリーとして社会開放される空中街路のようなスロープ,編集室を取り囲むように配置された厚みのある壁,その内側の用途を限定しないヴォイドヴォリュームという3つの要素で構成されている。
敷地は竿灯祭りの舞台となる山王大通りに南面し,北側には緑豊かな公園がある.積雪を考慮した総ビロティの駐車場は南北に通り抜けることができる。視界の開けた環境とすることで,公園と山王大通りの意識が相互に向き合い駐車場は街に見守られたフィールドとなる。さらに駐車場全体を緩やかに窪ませて,山王大通り側の2階レベルを歩道に近づけ,街との距離が遠くにありながら近くに感じられる高さ関係とした。公園側からはじまるスロープは,中央のヴォイドヴォリュームに沿って,折れ曲がりながら上昇していく。この空間は,バリアフリーに対応した市民ギャラリーであり,活動ヴォリュームが拡大しているときには,会議室のホワイエとして機能する。
厚みのある壁には,編集室から駐車場,市民ギャラリーヘの近道となる階段や収納が組み込まれている。スロープに面したこの壁は連続した曲面が黄色く塗られていて受付までの誘導サインを兼ねた展示壁となる。ここに,壁をくりぬいたアルコーブや応接 コーナーを配置して,支局員の日常的な領域としても利用できるよう配慮した。
スロープと厚みのある壁に守られたヴォイドヴォリュームは編集室と会議室で構成される。OAフロアにファンコイルユニットで暖気を送風し,温度調節が簡易で床全体が均質に暖まる床暖房を取り入れた。開放的な空間が,建具や可動間仕切りで分割され,編集室だけでなく休憩・応接コーナーもOAフロアとすることで,活動ヴォリュ ームの増減に適応してオフィスの領域が振動する。

DATA

所在地 秋田県秋田市
用途 事務所
構造 S造
規模 地上3階 地下1階
延床面積 1,291.70㎡
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